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「EMARF3.0」β版テストインタビュー 辻琢磨(辻琢磨建築企画事務所)

2020.07.01

「EMARF3.0」β版テストインタビュー 辻琢磨(辻琢磨建築企画事務所)

2020.07.01

  • interview

VUILD株式会社は、5月27日に日本初のクラウドプレカットサービス「EMARF3.0」をローンチしました。そのリリースに先駆け、株式会社乃村工藝社、株式会社オンデザインパートナーズ、SUPPOSE DESIGN OFFICE株式会社、辻琢磨建築企画事務所の皆さまに「EAMRF3.0」のβ版をテスト利用していただきました。

▶︎note:建築家が語る実務における「EMARF3.0」の可能性

今回は、辻琢磨建築企画事務所の辻琢磨さんにインタビューを実施し、「EMARF3.0」を使った製作物の詳細や使用しての感想や、改善提案などについて、VUILD株式会社代表の秋吉が伺いました。

Text by Naruki Akiyoshi

「粘菌建築」=図としての絆創膏+地としての棚

秋吉 まずは今回製作したものについてお聞かせください。

辻 今回は実務というより個人としてお受けして、自邸の改修用のパーツを製作しました。普段から断続的に自邸に手を加えているのですが、祖母の部屋だった場所を解体してつくった洗濯物干し場の野地板から釘が飛び出してしまっていたので、それを塞ぐ「絆創膏」のようなものを製作しました。

この「絆創膏」は木材に穴をあけて作ったもので、手で押してあげるとプラモデルのようにくりぬけるようになっています。また、それをくり抜いたあとの余りの部分は、加工して積層させて壁に取り付ける小物入れのような棚にしました。

秋吉 取り付けられた「絆創膏」は引きで見ると照明のように見えます。なんだか面白い質感を持っていますね。

辻 最初は平面で貼り付けていたのですが、どうも野暮ったく感じたので、側面で取り付けることにしました。いままで実務でもここまで装飾的なものを作ることはあまりなく、一度はやってみたかったので、岩元真明さん(建築家/九州大学芸術工学研究院助教)に「ユーモラス」だと評してもらえて嬉しかったですね。

秋吉 SNS上でこの「絆創膏」のことを「粘菌建築」と称していましたがその意図を教えてください。

辻 元々南方熊楠が好きで、彼の粘菌の生態から着想を得た思想的観点が、僕の建築観と近いものがあると思っています。私の建築観の根底には「建築を動かし続けたい」、流動している状態から一時的に現われてるものが建築であってほしいという考えがあります。粘菌は皆が粘菌のイメージを持っている、胞子を形成している状態が実は死んでいる時で、生きている時は無形の半流動状態であるという特性があり、それが建築の「コロシ」(部材を固定すること)と「イカシ」(部材を固定しないで置いておくこと)と重なって、ピンときていました。

また、熊楠は森と同化するように振る舞うことで新種の粘菌を発見し続けた人です。自他の境界を無化することで得られる偶然を越えた発明や発見のことを、彼は「やりあて」と言いましたが、今回の製作プロセスに「やりあて」たような感覚を覚えました。友人でもあるオンデザインの萬玉直子さんに写真をみせたところ「粘菌みたいだね」と言われたり、形態的にもまるで屋根から生えてきたかのように見えたので、これは粘菌建築って言ってもいいのかなと。

秋吉 完成した棚の一部は滋賀県立大学の川井操さんにプレゼントされたそうですね。

辻 最終的に棚は4本出来たので3つは自邸用に、残りの1つはプレゼントの話をこのローンチイベントの時に谷尻さんから伺っていたこともあって、いつもお世話になっている川井さんにプレゼントしました。川井さんがいらっしゃる近江(滋賀県南東部)と私がいる遠江(静岡県西部)は歴史的に縁がある土地なので、意味合いとしても面白いかなと。

秋吉 製作する上で、どのようなことを意識されましたか?

 普段からDIYやモックアップの製作でホームセンターの加工室をよく利用するのですが、パネルソーでは直線カットしか対応していなかったり、作業してくださる方とのコミュニケーションが難しい場面があったりと、制約がいくつかありました。なので、ホームセンターの加工室では出来ない「曲線を使う・穴を開ける・反復する」の3点を意識して製作しました。

偶然にも自邸から製作を担当した鈴三材木店までの距離が近く、実際にShopBotが動いてる様子を見ることが出来ました。直接機械を動かしている方とお話しすることはできませんでしたが、部材をビスで固定して刃を動かしている場面など、詳細を見れてよかったです。

「EMARF」のプラグインの使用風景

秋吉 今回はスケジュールの都合上、辻さんにCADで設計していただいたものをこちらでEMARFを通して加工データに変換したので、ここで実際のEMARFの利用イメージをお見せしたいと思います。「EMARF」をインストールするとCAD内にツールとしてコマンドを表示することができます。そこで部材の厚みの調整などを入力していただいて「FAB」ボタンを押すと、作成したCADのデータがサーバに飛んで、オンライン上にアップされます。そのページで部材などを選択したあと加工データを生成します。

辻 おぉ、すごいですね。サーバーへのデータ移行はどのくらいの時間がかかるのですか?

秋吉 データ容量によって変わります。今回の「絆創膏」であれば2-3分以内でサーバーに飛ばすことができます。加工データは部材上に自動でネスティングされるようになります。この加工データはマイページに保存してストックしていくことができます。条件などを編集したあとに「加工依頼」ボタンを押すと発注フォームページに移動します。

辻 出力される加工場は自動的に決定されるのですか?

秋吉 現状システム化されておらず、VUILD側がアナログで条件に該当する距離の近い各材木店や工務店に発注する仕組みです。今後自動で割り振れるようにシステム化する予定です。

辻 この黄色い線は何ですか?

秋吉 これは部材がずれないようにするビス留めの位置になります。このビスの位置や数も自動で算出されます。

辻 歩留まりの調整はどのようにするのでしょう?

秋吉 たとえば現状のクリアランスだと部材が必要以上に多くなってしまうので、一度その結果をふまえて設計を変更してサーバーに上げなおしたりして精度や金額を詰めていくインタラクティブなデータ作成プロセスを想定しています。

今回の「絆創膏」であれば穴の数を減らして幅を縮めたり、製作する個数自体を減らしたりすれば、使用する板のサイズを半分に抑えられるのでその分金額も下がります。

形状も矩形なので自分でもライアウトできますが、「EMARF」では、複雑な形状のものでも一枚の部材に収まるようにネスティングを自動調整できます。金額は切り出す部材の総周長から算出されるので、形状が複雑でも他のものと金額が大きく変わらない点も「EMARF」の特徴の一つです。

辻 これはホームセンターの加工室では本当にできないことです。歩留まりが悪いものを自動的に調整することができれば嬉しいですね。

秋吉 今後はアナログにはなりますが、データ製作をアドバイスする企画もやろうと思っています。週に3回程度実施する予定です。

ツールの選択肢としての「EMARF」

秋吉 辻さんが製作したものは、一つの完結したものというより、どういうものにもフレキシブルにアドオンしていけるような半マテリアルようなものだったので、使い方が面白いと感じました。

辻 他に「EMARF」の体験をされている谷尻さんや西田さんは、建築にスケールをあわせるように小屋を製作したということだったので、幅も見せるという意味では結果的に良かったかと思います。

秋吉 製作してみていかがでしたか?

辻 建築スケールであれば問題ないのですが、私が製作したものは装飾や棚などの、細かな精度が気になるような非常に小さいスケールのものだったので、ニッパーで切ったりやすりをかけたりと精度を上げるための下準備が必要でした。ただ、アナログな作業を経ることで、デジタルなものづくりとアナログなものづくりが混ざり合っていくような、過程のハイブリッドさもデジファブ系の加工の特徴なのかなと捉えています。

秋吉 今回は自邸で使うものを作ってもらいましたが、実務で使うイメージは浮かびましたか?

辻 もともと「EMARF」でひとつの完結した構造体を作るイメージは持っていなかったので、細かな調整が必要なプロジェクトであれば部分的に使用することはできると思います。メインで使うことよりも、設計の下支えとなるツールの選択肢として「EMARF」があると思えることの方が重要なように思えます。

秋吉 大抵の人は「デジタルファブリケーション」と聞くと、それでしか作れないものを作らなくてはならないというマインドに陥ってしまうのですが、辻さんの場合は既存のツールと並列に特殊なものとして捉えていないので、とてもありがたく思っています。

辻 ただ今回の件で本音を言うと、できれば職人に施工してほしかったという思いはあります。素人施工で限界まできれいに仕上げましたが、コンマミリ単位で誤差やずれはどうしても生じてしまうので、施工の専門家にお願いした方がいいものを作れるよなとも思いながら施工していました。

実際に作ってみないとわからないこと

秋吉 設計者と職人の意思疎通・指示をデジタル技術を介することで円滑にすることが「EMARF」で実現したいことの一つです。普段の業務では、施工を担当する職人さんとどのようにコミュニケーションを取って指示を出しているのですか?

辻 業務では、穴あけの位置指定や間柱の位置などを細かく記載した工場発注の指示書レベルの施工図を用意することもあります。逆に自邸の施工時は、既存を前提にした減築が多かったこともあって、「455(1.5尺)で間柱立ててください」や「胴縁303(1尺)でいいです」など、逆に図面を書かずに現場で口頭で伝えるだけで成立していましたが、スチールの使用など特殊な場面では、細かな指示図は必要になると思います。

秋吉 「EMARF」というツールがあったところで、何をどうすればいいかわからないという人が多いようです。

辻 やっぱり実際に作ってみないとわからないことなのかもしれません。例えばモックアップを作らなくてはいけなくなった時は、外注するとコストが高いので、模型の延長のイメージで丸鋸やインパクトドライバーを使って自分の手を動かして施工をしていました。そうすると、この状況ならこの道具は使えないなどが具体的にわかるようになりました。道具に対する手心がないと難しい部分があるのかもしれません。

秋吉 小さいものから試してみることで丸鋸などと同じように、「EMARF」なりの作り方や表現が開拓・構築されていくということですね。

辻 もちろん、専門知が求められる細かい部分をブラックボックスにして手軽に使えるようにすることも、使用者の範囲を広げるための条件でもあると思います。それをふまえつつ、「EMARF」の仕組みと拠点をいかに展開していくかも検討する必要があると思います。基本的に実務でも工務店としかやり取りをしてなかったので、今回材木店さんとの繋がりを作れたことはとてもありがたかった。企業努力としてイベントを開催するなど、展開の方法はあるかと思います。

秋吉 たしかに地域の拠点ができたところで、使ってもらえないと意味がありません。具体的に使ってもらう人と材木屋や工務店をネットワーキングする手伝いをVUILDとしてもやっていこうと思います。

 「EMARF」にとってはアウトプットの汎用性や再現性よりも、流通の再現性の方が重要なように思えます。部材のトレーサビリティを担保できますし、ホームセンターの加工室にお願いして取りに行くなどの労力なしに、直接部材が届くだけでもこれまでと全く違います。

「EMARF」の汎用性とそこから生まれる特殊解

秋吉 今回の「絆創膏」と棚のような建築家が作った特殊部品や製作物のデータを公開することで、他の建築家に流通させることもできるかと思います。

 今回製作したものは「EMARF」と自邸の改修という小さなコンテクストが結び付いた結果生まれた特殊解です。なので、それを汎用に持っていくのは飛躍があるように思えます。それに、秋吉くんという別の建築家が作った仕組みに乗っかるかどうかについては、作家性の問題に関わることでもあります。棚に関して言えば、世界に4本しかないという希少性があったから川井さんにプレゼントしたくなった部分もあるので、それが誰でも出力できるとなるとまた話が変わってくるようにも思います。また、「絆創膏」を使いたい人がどれだけいるのかもわかりません笑。

ただ、「EMARF」で作られたものをアーカイブして公開することは非常に重要だと思います。 「EMARF」の仕組み自体の汎用性は高い一方で、アウトプットは今回のように特殊な事例と結びついたものになります。「EMARF」の汎用性の価値は、こうした特殊解が積み重なって生態系レベルに広がった時に見えてくると思います。アーカイブは「EMARF」の汎用性を示すものでもあるし、それらは「EMARF」がなかったら生まれなかった発想です。それを共有することが誰かの新しいアイデアのトリガーになって、色んなきっかけを生むのではないでしょうか。

秋吉 オープンソースデザインの領域でも再現性がないものが多かったのですが、製造可能性を担保することで、本格的なデータシェアを成立させられたらと思っています。

辻 どういうときにそのような共有のタイミングが成立するのかは興味ありますね。

[2020年6月某日、Zoomにて実施]