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EMARF3.0ローンチ記念イベント 「アフターコロナの建築ものづくり」開催レポート Vol. 3

2020.06.26

EMARF3.0ローンチ記念イベント 「アフターコロナの建築ものづくり」開催レポート Vol. 3

2020.06.26

建築テック系スタートアップVUILD(ヴィルド)株式会社では、多様な領域で活躍する専門家を招き、様々な経営課題や組織のあり方についてオープンな場で語り合う「OPEN VUILD」を開催しています。今回は、「EMARF 3.0」のローンチを記念し「アフターコロナの建築ものづくり」をテーマに第一線で活躍する構造家3名と建築家3社をゲストにお招きし、開催しました。

開催レポートVol. 1では、VUILD代表・秋吉浩気より 「オンラインで建築する - EMARF3.0とは(リンク)」と題しイントロダクションを、Vol. 2では第一線で活躍する構造家3名をゲストにお招きし、 「分散加工が可能にする構造デザインとは(リンク)」をテーマにお伝えしました。

開催レポートVol. 3となる本記事では、同じく第一線で活躍する建築家3社をお招きし、アフターコロナの時代にあって建築ものづくりはいかに可能か、分散型ものづくりの可能性を模索します。

Session 2 「加工の自由度は、意匠の自由度を高めるか」

登壇者:
谷尻誠(SUPPOSE DESIGN OFFICE代表、建築家/起業家)
辻琢磨(辻琢磨建築企画事務所主宰)
西田司(オンデザインパートナーズ代表)
神永侑子(オンデザインパートナーズ)
河野航(オンデザインパートナーズ)

秋吉 Session 2を始めたいと思います。登壇者の建築家の皆さんには「EMARF 3.0」をリリース前に先行して使ってもらう依頼をしていました。まずは辻さんから、まさにできたてホヤホヤの熱量をプレゼンテーションしていただきます。

辻琢磨「身体感覚に近い工作」

辻 普段は3人組で403architecture [dajiba]という設計事務所で活動していますが、今回のプロジェクトは、個人の事務所でお引き受けして、通常のクライアントがいる仕事ではなく、今僕が住んでいる自邸に断続的に手を入れているので、そのパーツをつくることにしました。まずはこの家についてご紹介します。浜松の中心市街地から北へ電車で30分ほどのところにあります。元々は祖父の家で、僕も小学生の時までは住んでいた二世帯住宅です。

親戚が集まる場所があるようないわゆる実家です。8LDKで、工房のようなスペースも用意できたりと、かなり広いのですが、諸事情から今は僕と妻と息子の3人で住んでいます。その中のプロジェクトのひとつとして、亡くなった祖母が使っていた場所を減築して、洗濯物を干せるような場所を計画しています。当初は物干し竿セットみたいなものをつくろうと思っていたのですが、天井を剥がしてみると、コンパネのシンプルな薄い野地板と、そこから飛び出た釘の頭が露出してしまっていたので、EMARFを使って、これを塞ぐ「絆創膏」みたいなものをつくろうと思いました。材を抜いた地の材は、貼り合わせて壁にかけるペンや小物を入れる棚みたいなものをつくろうと思っています。

浜松でのEMARFのパートナーは鈴三材木店さんという材木屋さんで、たまたまですが僕の家から車で10分くらいの近距離にあって驚きました。VUILDのチームとはFacebookでやり取りしながら、東京ともずっと繋がっている感じで設計を進めていた一方で、車ですぐのところに担当の方がいてShopBotもあるという奇妙な距離感がおもしろいと思いました。
EMARFで可能な加工の特徴として、曲線を使うこと、穴を開けること、反復、図と地を使うこと、という4つを意識していました。僕はDIYもしますし、モックアップもつくりますが、その時に近所のホームセンターの加工室に合板や角材の加工をお願いすることがあります。加工自体はかなり安くできるのですが、何度もお願いしていると加工室のおじさんがちょっと不機嫌になって少し使いづらい時もあるなと思っていました(笑)。また、加工室のパネルソーは一方向の切りっぱなしのカットしかできないという制限があります。ShopBotであれば、曲線が自由に使えて、穴がくり抜けて、反復できる(反復しても嫌がられない)という特徴があると思います。そうした特徴と、僕の家の小さなコンテクストを結びつけて、この絆創膏みたいなものが出てきたわけです。
また、ShopBotは刃厚が6mmもあって、僕はそれ自体もコントロールしたいと思っていたのですが、EMARFは自動で決定されるという仕組みでした。今はまだタブが付いていますが、これをニッパーで切って、ヤスリがけをするので、本当にプラモデルのようです。切り出しは機械ですが、その後のアナログな作業によって物ができてくるハイブリッドがおもしろいなという感想をもちました。インテリアにも満たない、装飾に近いようなプロジェクトですが、パーツができて組み立てるまでの過程が連続的で、かなり身体感覚に近いものだと思っています。

EMARFをどう使うかは、そのShopBotを置いている会社がなにを売り出したいかや、担当者とのコミュニケーション能力などに拠るところも大きいと思いました。鈴三材木店さんは材木屋ですが、例えばホームセンターであればそのマーケティング方針も違ってくるので、EMARFの使われ方も変わってくるのだろうと思います。
僕が今回取り組もうとしていたテーマは、汎用性と特殊性を新しいかたちで考えるということです。EMARFは汎用性が目指されていますが、僕の家の場合は、飛び出ている釘を塞ぐという相当特殊なことに使います。汎用性と特殊性が矛盾しない、新しい関係をつくることができると感じました。

谷尻誠「1,000棟建てる」

谷尻 僕たちは、2019年の夏に考えていたことがあり、それを具体的な企画にして、今、色々な人に見せているところです。都市で生活し続けているのが嫌で、キャンプがすごく好きなのですが、自然の中で過ごす環境をつくる「CAMPTECTURE」というプロジェクトです。キャンプは準備が大変だし、別荘は意味が重いし、メンテナンスも大変なので、その間のものをつくろうと考えました。キャンプ以上別荘未満です。

プライベートキャンプ場の運営をしながら、地方創生と不動産価値の変換、それをテクノロジーで連携するというビジネスプランをつくりました。たまたま千葉県いすみ市に土地を見つけたので、専有の小屋とシェアキッチン、サウナなどを建てます。小屋のプランをつくったり、配置計画や事業計画を詰めているところです。

キャンプ場では火やランプを使いますが、電源のあるシェアキッチンが1棟建っています。生活の場所であり、オフィスでもあり、キャンプもできるという場所にしたいと思っています。ひとつのキャンプサイトに10棟くらい小屋をつくり、それを47都道府県で2サイトずつくらいつくれば、日本全国に計100カ所、1,000棟くらいになります。
この計画をしていた時に、EMARFのお話をいただいたので、まずは小屋のモックアップをつくろうと思いました。1,000棟つくるので、ひとつひとつ大工さんと打合せをしていくのではなく、コンピュータ技術を使ってどんどん出力していくイメージです。モックアップをつくれるような広い場所がなかなかなかったのですが、ちょうど竣工したばかりの自宅にテラスがあったので、そこで試しに3畳くらいのコンパクトな小屋をつくってみようとしています。

もう切り出しができる段階だと言われていて、早くつくりたい気持ちもありますが、細かい加工もできるので、あらかじめ開口部の雨仕舞などのディテールを考えているところです。今、このプロジェクトを法人化して、資金調達も大体できてきたので、一気につくっていこうと思っています。

秋吉 いいですね。特にこの今日のテーマの「アフターコロナ」という意味で引きがあるコンテンツだという気がします。続いて西田さんたちにお願いします。

オンデザイン「家具のような小さな空間」

西田 今日はオンデザインから3人で参加します。よろしくお願いします。秋吉さんとは既に何度か一緒に仕事をしています。先ほど佐藤淳先生が紹介していたツリーハウスは、秋吉さんや佐藤研究室の学生さんの手も借りながら、びっくりするほど大変でしたが、1年がかりでなんとかできました。通常、建築は柱や壁、床といった部分に分解されていきますが、VUILDや佐藤先生と組んで構造の合理性を考えていくと、パーツが積み上がっていくように建築ができるのがすごくおもしろいと感じました。図面を描いてハンドリングしていくというよりは、3Dモデルがあり、それが最適化されるように仕口なども決まって、物が立ち上がるという感じです。
腰原先生も言われていましたが、僕たちはEMARFを通して家具と建築の間のスケールを考えたいと思っています。秋吉さんと初めて会った時は、まだ小さな家具をShopbotでつくられていたのに、それからわずか3年で建築までできたということで、恐ろしい進化を間近に見ました。そうした進化に乗り遅れないためにも、家具と建築の間のプロジェクトを考えています。
谷尻さんからはキャンプ以上別荘未満というお話がありましたが、スケールはそれに近いです。家の中の小屋を考えていて、寝る場所や子供の部屋にもなり、リモートワークもできるような小さな居場所です。それを、部屋ではなくて家具の延長としてつくろうとしています。

神永 これがイメージスケッチです。小屋をつくることを考えていくと、内部空間を豊かにしようと考えることが多いですが、ここではむしろ輪郭を柔軟な形にすることで、内部空間のプライベート性を担保しつつ、外側の共有空間に対しては、居場所となる凹凸をつくるというものです。「岩型ドーム」と呼んでいます。

最初のイメージスケッチを断面図にして、つくり方はあとから考えていきました。図面を元に、いつもお世話になっているARUPの徳渕正毅さんに相談をしました。輪切りにした合板材を積み上げていくことで、柱のない立体的な空間ができるのではないかと検討中です。18mmから24mmの厚みの合板を使って、多面的な岩型の立体をつくろうとしています。この「岩型ドーム」は、大きなワンルームに家具を置くように複数配置することで、共有空間にひとりでいても嫌ではない、凹凸ある居場所をつくります。

 

輪切りの合板を高さ2mほど積むと、90段ほど必要になります。そうなると、先ほど腰原先生も話をされていたように、材料費は安くても組立費が高くなってしまいそうです。そこで、合板を2次元的に曲げてつくる「トンネルドーム」も検討中です。

これも根本的な考えは「岩型ドーム」と同じで、内側に小さな空間をつくりながら、外側に座れる場所やデスクをつくっています。合板に溝を入れて曲げることで、まさにトンネルのように無柱の空間を構成しようとしています。

西田 僕らは、秋吉さんからEMARFの話をいただいた瞬間にこのふたつの案を投げ返して、同時に走らせています。やはり「トンネルドーム」の方が圧倒的に加工が楽なので、これを先につくって、後から「岩型ドーム」をつくる予定です。今は、リリースに向けて「トンネルドーム」を実際につくって、ワンルームの僕の家に置いてみようと思っています。

ディスカッション「EMARFと新しいビジネス」

秋吉 ありがとうございました。物やサービスに留まらず、社会や建築のあり方まで踏まえて幅広くディスカッションしていきたいと思います。谷尻さんも西田さんも、ちょうど今日のテーマにもある「アフターコロナ」に求められている空間を提案されていたのが印象的でした。まず、新しい技術によって建築や空間がどう変わってくのか、コメントいただけますか。

西田 秋吉さんとやったプロジェクトを振り返ると、建築をつくっているというより、組み立てモデルをつくっているような感覚でした。建築は色々なものがブラックボックスになっていて、壁の中がどうなっているのかわかりません。今回のプロジェクトは、取扱説明書さえあれば、テントを組み立てるような感覚で、部屋にひとつつくろう、庭にひとつつくろうというくらいの感覚でできるはずです。
実はこのプロジェクトは、「YADOKARI」というタイニーハウスをつくっているチームと一緒にやっています。谷尻さんも「キャンプ場以上別荘未満」という素晴らしい提案をされていましたが、まさに、家はちょっと重いけど、小屋くらいの感覚で自分の領域がほしいというニーズはすごくあると思います。秘密基地としてとか、自分の好きな物に囲まれたいとか、全部揃っていないから自分で少しずつ手を入れられるとか、「小屋感」というのはすごく良いと思います。家を自分でカスタマイズするのはなかなか難しいですが、小屋であれば自分でやってみようかなという気持ちになります。EMARFの価値とは、なにをつくるかが各個人の自由に委ねられていて、無限に手を入れられることです。

谷尻 建築はつくるのがすごく大変なのですが、EMARFの仕組みを使うことで、例えば一部屋とか、小屋を一戸、実際につくって、ギフトにできるくらいだと思いました。友だちとお金を集めて、結婚祝いに小屋をプレゼントするとか。僕は昔から、建築が好きな人を増やしたいという思いが根本にあり、ある一定の人たちだけが建築をつくるのではない世の中になればいいなと思っていましたが、その可能性が一気に広がったと思います。建築業界の人たちは内側に閉じているので、普通の人に向けてつくり方やサービスを提供するというような話は、これまでなかったと思います。業界から外へ出ていく人がもっと増えればいいですね。

秋吉 「再現性」を重要視していて、小さな小屋の様々なバージョンによって、建築家がロイヤリティを得られるかもしれないと考えています。「EMARF 3.0」の前の「2.0」では、誰かがデザインした家具を買えるようにしていました。クリックするとパーツが送られてきます。一生懸命設計したものを、あとからちゃんと回収できるようなビジネスモデルにならないかというものです。人にあげるのもおもしろいと思いますし、1,000棟以上つくるというのは、ひとつひとつ設計してフィーをもらうよりは実ははるかに身軽だと思います。

谷尻 建築家の、「設計料は総工費の数%」というビジネスモデルは、これだけ時代の状況が変わっているなかで、なんでみんなそのまま継承しているのだろうという疑問をずっともっていました。もちろんそれも大事なことですし、僕たち設計事務所としてはそれをやっているのですが、もっと違うやり方やマネタイズがあってもいいと思います。このコロナ禍によって、これから設計の仕事が減っていくとすると、不安を抱える業界になります。それでは未来がないので、やはりできること増やしていかなければいけないと思っています。

ディスカッション「住みながらつくる、つくりながら使う」

秋吉 コロナ禍で、地方移住者や、別荘未満のものが増えくるのと同時に、辻さんのように古い家に住みながら改修していくようなライフスタイルがもっと出てくると思います。VUILDの具体的なものづくりを通してデザインを考える姿勢は、辻さんたちからも影響を受けています。辻さんは、加工の自由度が上がったことで、表現や設計意匠はどう変わると考えていますか。

辻 建築をつくる、あるいは考えるためのツールがひとつ増えたという感覚は確実にありますが、僕としては、ホームセンターの加工室の延長、その「すごい版」という感じです。ホームセンターの加工室を使いこなしている人は一定数いると思いますし、その層にアプローチできれば、汎用性をもったEMARFはもっと広がっていくと思います。設計者にとっても有用性が高く、同時にDIYが好きな人や建築の専門外の方にとっても開かれているところが大きな特徴だと感じています。
また、設計者として実際に使ってみて、普通に工務店さんと打ち合わせしているだけでは開かれていないコネクション、生産者や加工者、問屋などへの入り口になるという感想ももちました。材木屋さんからホームセンターまでアプローチできるプラットフォームは世の中になかったと思うので、そのネットワークができるだけでもとても有益です。一方、利用者として感じたのは、建築自体が近づいてくるような感覚です。ホームセンターでもいいのですが、EMARFはできることが多くて、また、加工をアウトソーシングして組み立てるだけという、一番楽しいところを自分の身近な場所でできるというのは大変魅力的です。

秋吉 辻さんは、浜松で材料を選ぶところからやって、天竜材を使ったそうですね。関東圏だとなかなか中間の問屋業も多いので、採れたてのものを新鮮なまま調理するのはなかなか難しいです。地方では、材料を見てからデータをつくる、素材から料理を想像するようなものづくりの可能性があります。

西田 普通の建築は、最終イメージを考えて、それを模型や図面で表して、そこに向かって直線的に走るようなところがありますが、辻さんの家はそうではないところが良いなと思いました。図面を描いて、工事をしてから住むのではなく、つくりながら住むことに、加工技術や生産技術が追従していっている。使っていることとつくっていること、暮らしと生産が同居しています。EMARFもおもしろいけど、辻さんもおもしろい(笑)。今日の「加工の自由度は、意匠の自由度を高めるか」というテーマと地続きですね。

神永 EMARFを使ったものづくりのノウハウが開示されていくと、家をどんどんつくり変えていこうとする人が増えていきそうですね。

辻 アウトプットの共有はすごく重要だと思います。EMARFは、僕がつくったような2cmくらいのパーツから建築スケールまで、アウトプットの幅がかなり広いので、それをなるべく示したいという意気込みをもっていました。
つくることと住むことが一緒になれば、良い質をもった空間が世の中にどんどんできてくると思います。家を知るには時間がかかります。僕も、過去にこの家に住んでいたことがあったとはいえ、天井裏の梁の位置や、時間によって入ってくる光の差し込み方などの細かなコンテクストは、住み始めて時間がかなり経ってから徐々にわかってきました。部分的につくって、また考えて、というように、設計がインプットとして進んでいくのは、抽象化を経ない状態で、誰にでも経験できることです。生活とつくることが混ざっていけば、一般のユーザーにも広がっていくと思います。EMARFは、釘抜きや玄能と同じようなものとして、最初の一歩を踏み出す身近な道具のような存在として広がっていってほしいなと思います。

秋吉 辻さんのプロセスを共有して、辻さんのフォロワーみたいな人が出てくるとおもしろいですね。EMARFで目指していたのは、つくることによって自分の住んでいる空間や生活への感度、主体性を高めていくことでした。谷尻さんが言っていたように、建築に関わる人を増やしたり、開いていきたいと考えていました。新しい生活を自身が示して、それをギフトのようにデータ共有、ノウハウ共有するという新しいアーキテクト像があってもいいはずです。EMARFのような技術によって、完成したものを鑑賞してもらうだけではなく、建築のプロセスに入ってもらうためのデザインも可能になります。建築の流通とは、届け方や関わり方です。

西田 秋吉さんは「メタアーキテクト」を自称していますね。まさに仕組みをつくることで、いろんな人が物をアウトプットすることができます。また、メタアーキテクトのような視点をみんながもつことで、例えば、谷尻さんがつくったテントを他の人がアレンジして、違う形のテントが生まれる可能性もあります。

辻 DIYもすごくいいと思いますが、EMARFによって、家を知っていくきっかけとして、ここは良くなかったとか、もっとこうした方がいいというような想像力が湧いてきます。そうすると「ここは自分では無理だから、工務店にお願いしよう」という選択もできると思います。どんどん家を柔らかくしていくようなきっかけがつくれる。

ディスカッション「専門性とアマチュア性」

谷尻 建築、家具、プロダクトなどとカテゴリーして、特化するという美学があったと思います。大工であれば、その道を追求して、それ以外のことをやらない美意識というものがあると思います。でも、それは同時に、こうしたコロナ禍のような危機においては弱さになります。これからは、マルチであることも価値になります。EMARFはなんでもつくれて、名刺に色々な肩書が書かれている人のような胡散臭さがありますが(笑)、それが価値になる可能性を感じます。あれもこれもできる、というのは正義だと思います。

西田 Rhinocerosの3DデータをそのままShopbotに送ってつくることができるというのは、通常の平面図や断面図を描くのとは全然違います。図面を描いていた河野くんはかなり困っていました。

河野 机のサイズがあり、椅子を引くためや、通路として必要なスペースがあってというように、平面・断面の検討をしていく通常の流れではなく、すべてを同時に考えていく難しさがありました。

西田 職能として、断面や平面の美学のようなものをもっていて、常に2Dでハンドリングしてしまう癖があるのですが、そこを横断する必要がありました。3Dネイティブの人たちにとって、また普通の生活にとっても、空間が3Dであることは当然なのですが、そうではない僕ら専門家の固定観念が無効化されるのがおもしろかったです。

秋吉 先日、オンラインで設計課題の講評会がありました。今の学生は、2Dのパースではわからないような豊かな世界を、Rhinocerosでより高解像度に、深いところまで設計しています。それなのに、わざわざ紙に印刷してパネルに貼ってプレゼンテーションしなければいけない理由がわかりません。
谷尻さんが、危機に対する建築家の職能のレジリエンス(回復力、弾性)という話をされていましたが、建築設計のレジリエンスというのもあると思っています。EMARFは、フロントエンジニアというウェブのエンジニアやバックエンドのサーバーを処理するエンジニアなど、本当に沢山の多様なエンジニアと一緒に開発したのですが、そこから得たヒントは、アジャイルという考え方です。建築だと、2Dと3D、 計画と形態を別のものとして分けてしまうのですが、スタディの度に統一してみる、「繋ぎ込み」してみる、というサイクルをどんどん回す方法も良いと思います。ウォーターフォール型で、基本設計と実施設計や、柱と開口の設計などと分けてやらないで、一旦全部考えたことをアップデートしていくような設計ができないのかと思っています。そうすると、「コロナ禍を踏まえて、人が集まらないオフィスにしたい」というような大きな設計仕様の変更に対しても、今まで積み上げてきたものをゼロにせず軌道修正できると思います。

西田 先日「PANDAID」という感染症対策のデザインをやっている太刀川英輔さんとパブリックスペースについて議論をしました。太刀川さんは、「パブリックタイム」が重要なのではないかという話をしていました。スペースがあってそこをどう使うかではなく、これからは時間の共有です。ただ、時間というのは弱い概念なので、それをサポートする環境として建築があるということです。また、このオンラインミーティングもそうですが、距離は離れていても、時間軸は一緒に移行しています。パブリックタイムという概念はまだ確立されていないのですが、今後の建築や環境が問われますし、パブリックスペースを考えるための糧になりそうだと思いました。

谷尻 神永さんが、つくり方はあとから考えるとおっしゃっていましたが、つくり方を手放せるのがいいですね。普通の設計だとつくり方をすごく考えるのですが、逆に言えばそれは設計者の能力のものしかできません。それを手放すと、自分たちの能力を超えたつくり方が生まれてくる。これまでできないと思っていたようなものも、新しいつくり方が見つけられそうです。

神永 検討している「岩型ドーム」は、分解した途端にドーナツ型のパーツになります。木は柔らかいということを感じさせてくれました。つくりたいと思ったものの成り立ちがパーツとダイレクトにつながるというのは、木材かつEMARFだからできることだなと実感しました。

秋吉 つくり方にこだわるのと、それをある種放棄するのとふたつの方向性がありますね。後者は、素人でも参加できて、一般化の可能性があります。今、大学の授業で、Rhinocerosでも1時間教えれば、その翌週にはモデリングされた「国立代々木競技場」が提出されてきます。良し悪しはあると思いますが、構造力学がわからなくても、自由に表現してみて、あとからつくり方を考えるというのはアリだと思います。他方で、つくり方や手触りから考えていく建築の可能性もあって、例えば、Session 1で佐藤淳さんはジョイントや部材について詳しく話をされていました。

辻 建築家の職能を問い直すツールでもあると思います。それは、EMARFのような広がりがあって初めて出てくる問いです。僕は逆説的に、抽象的に考える力や、計画というものも重要になってくると思いました。コロナ禍による対面ではないコミュニケーションで、画面上にすべてがフラットに並ぶ関係のなかでは、抽象的に考える力がより一層設計に反映されてくる気がします。生活とつくることが地続きになっていった時にも、建築を考えるならばどこかで抽象化すべきタイミングがあると思います。抽象化できるかどうかが、建築家の力なのではないでしょうか。領域を広げていく力としても重要だし、そこで改めて立ち止まって考える契機という意味でも重要だと僕自身は思います。

秋吉 冒頭でプレゼンテーションしたのは、創造性の欠如についてでした。建築学科は素人が建築を設計できるようになるまでのシステムですが、普通の人にも応用できると思っています。抽象化の能力を引き上げられるのも建築家の職能なのかなと。つまり、建築家ひとりで全部をデザインするのではなくて、部分的な変更やカスタマイズができます。例えば、谷尻さんの小屋であれば、谷尻さんが思考してきたことを意識しながら、部分をカスタマイズするような関わり方があり、それを提供する建築家という職能もあると思います。そこまでできるとおもしろいですね。

辻 考えないための機械ではなく、より考えるようになるための機械であってほしいですね。

秋吉 設備をもたなくても、ものづくりの実験ができるというのもおもしろいことだと思います。どんな文化や発明でも、精神的な余裕や余剰から生まれるチャレンジや思いつきが必要です。文章であれば例えばnoteというサービスがあり、動画であればYouTubeがありますが、ものづくりの世界にとって、建築家や学生の流通経路、インフラとして使われるとおもしろいですし、創造的な使い方を皆さんと一緒に考えていきたいです。

谷尻 考えているだけではなくて、つくり続けることで建築家になっていくわけなので、実験は重要だと思います。経済的な問題などでなにかを諦めている人がすごく多いのですが、今の時代はテクノロジーがあって、これまでできなかったことができるし、お金集めるもできるので、できないことが減っているはずです。ただし、便利になったことで、頭を使って物事を考えなくなっている人も増えていると思います。頭を使って実験をすることで、前進していくと思います。

西田 辻さんは「ホームセンターのすごい版」と翻訳していましたが、とっつきやすさがありますね。EMARFと言われると遠慮してしまう人も、ホームセンターだと思えば使ってみようと感じると思います。工夫が沢山生まれて、集合知になっていくと良いですね。

辻 ホームセンターを資源として考えると、使えば使うほど、加工室のおじさんと仲良くなったりして、価値がどんどん上がっていく感じがあります。それのもっとすごいものがEMARFだと思います。使い続けることで、資源を掘り起こしていくことができます。

西田 そういう意味では、EMARFの接合部を考えてくれる機能はすごくいいですね。接合までは連続的に考えられなかった人も、EMARFに教わることができるし、いろんな人が使って、接合部のバリエーションが増えて、選んだり、リライトしたり、どちらがオリジナルかよくわからない感じになっていくかもしれません。

秋吉 対話の相手としての技術という思想は元々もっていました。人を賢くする技術をつくりたいなと思っていましたが、そのためには、人間がやらなくていい部分は徹底的に機械に任せるということをどんどん進めていきたいです。一生懸命頑張ればいいというような美学は捨て去りたいです(笑)。

西田 谷尻さんが小屋のプレゼンテーションで、開口部のディテールを考えていると言っていましたが、やはりそこがどうあるかを考えるところが、建築家としての美学だと思いました。そのディテールはオリジナルだけど、他の人も使えるし、さらにその延長で、アイデアを組み合わせることで、どんどん賢くなっていくかもしれません。ひとつの建築ができて終わりではなく、アジャイル型で、どんどん良くなっていく可能性がありますね。

谷尻 僕たちはやはり商品としてちゃんとお届けしたいです 。小屋は、建築でもありプロダクトだと思っています。

秋吉 これまで建築家とハウスメーカーは、オートクチュールと大量生産というように線引されてきましたが、谷尻さんの実践のように「ひとりハウスメーカー」になれる可能性があります。今の世界は、誰に何がヒットするかはよくわからないところがありますが、EMARFは在庫リスクも設備投資もなく、誰でもヴィジョンとイメージとデータによって始めることができます。これまでの個別対大量というような二項対立に衝撃を与えるかもしれません。今はそんなに沢山の量は必要とされていない時代ですが、谷尻さんの小屋や、西田さんたちの半個室のようなものは、「アフターコロナ」でニーズが出てくると思います。そういう誰もプレイヤーがいない領域に、建築家ならではの機動力で、新しいハウスメーカーみたいなことをやり始める人が出てきたらおもしろいですね。

谷尻 ハウスメーカーがメジャーで、建築家がインディーズみたいなのはすごく嫌ですよね。建築家も、ライバルはハウスメーカーではなくて、アップルコンピュータだと思います。ファッション業界では、オンラインでオーダースーツがつくれますし、他の業界はもっと先に進んでいるので、秋吉さんのような人が出てきて本当に良かったと思います。

秋吉 技術をきっかけに、それぞれの人がそれぞれの表現領域やビジネスで使ってもらえればいいですね。

西田 今日は建築家が集まって話をしていますが、ユーザー側からもアップデートされる可能性があります。

秋吉 それこそ新しい公共圏のようだと僕は思います。

谷尻 建築家よりセンスが良い人は沢山いますし、建築家がつくるよりも良いものが出てくると思います。そうなると建築家は生きていく道を本気で探し出すと思います。

秋吉 その時に「良いもの」の基準が変わりそうですね。ディテールだけではなくて、使い方や「あの人が良いと言っているから」とか、多様な「良い」の軸が出てくるともっと建築はおもしろくなると思います。

西田 おもしろいセンスの人は世界観をもっていて、平面図や断面図で表せないもので、物や環境を捉えているところがあります。そういう感覚で建築をフィジカルに、体験的に考えていく可能性があります。建築の教育を受けると、機能や技術の側面から考える習慣ができてしまいますが、機能的でも技術的でもない、誰にでもわかる空気みたいなものを表現するためにも、オープンでフラットなEMARFは使えると思います。

ディスカッション「EMARFによる身体性、属人性とは」

秋吉 著作権やデータ共有の方法について質問が来ています。先日、西田さんと谷尻さんが「tecture(テクチャー)」の話をしていて、すごく盛り上がっていましたが、なんのために共有するのかを考えさせられました。EMARFは図面や仕様書ではなく、3Dデータや、実際に物が出てくるところまでフィジカルな共有ができます。

谷尻 昨日、Takramの田川欣哉さんと対談していたのですが、田川さんがSansanという名刺管理のアプリケーションをつくった人の話をしていました。名刺1枚を入力するのに20-30円が必要ですが、全人口の名刺をスキャンしても6億円にしかならないので、一度入力を終えたらそのビジネスは終わりになります。Sansanの社長はタダで全員分やってしまった方が未来があるというヴィジョンをもっていました。Sansanは東証マザーズにも上場しています。著作権という目の前の小さなものを見るのか、もっと先の未来を見るのかによってまったく考え方が変わるはずです。デザイナーは未来を見ていないのが問題だと思います。

秋吉  よくわかります。著作権も知的財産もビジネスになる可能性がありますし、身構えて思考停止するよりは、投げ捨てるか、ダイブだいぶするかのどちらかを選んだ方がいい気がします。

西田 あるものを設計して報酬をもらうというよりは、人の生活や街に少しずつ浸透していくことで、結果的にプラスに好転するというようなことが起こりそうです。そういう意味では、建築家のクレジットに関しては気にしていないです。

辻 僕も著作権はそこまで縛られるものではないと思います。むしろ、こういうツールを使ったり、さっき言ったように、自分できちんと考えて形にしていくと、インスタ映えというよりは、深みのある喜びが生まれると思うので、言葉と一緒に人に見せたくなると思います。見栄えがいいだけではない、なにかピンと来るものができると、そのことをコンテクストも含めてちゃんと説明したくなる気持ちが湧いてくると思うし、それはすごく大事なことだと思います。

秋吉 プロセスとデータがオープンになっていれば、誰かのそういう経験を追体験できるかもしれないですね。自分でもやってみようとか、デザイナーが考えたことが深くわかるような気がします。ユーザーのデザインへの意識が上がってくるかもしれません。

西田 辻さんのプレゼンテーションを聞いて思ったのは、辻さんの家に行きたいということです(笑)。部品だけでも家具だけでもないし、属人的な部分が表れていて、その場所を体験してみたいと思いました。EMARFは、技術を提供するだけではなくて、各々の属人性を出すためのツールで、建築をつくっているようで、自分自身を開いていく感覚になるのがおもしろいですね。

辻 家が体の一部になっていくような感覚があります。祖母の部屋の壁と床を解体して、新しく土間コンクリートを打ったあとに家全体の重心が変わったように感じました。それが属人的なものとして現れているのかもしれないですね。
ここでは、建築作品にしなくてはいけないというような強迫観念みたいなものをもたないようにしようと思っています。ちゃんと家と向き合って、地道に応えていくことを積み重ねていくことにチャレンジしているので、いわゆる建築作品という枠組みを外さないと自由に振る舞えない。谷尻さんの姿勢に共感します。

谷尻 いやでも、僕たちは建築作品にしたいですね。建築作品かそうでないかを分けるのが嫌なので。

辻 僕は、今までの建築作品には現れてこなかったような価値観自体をつくるというところに突っ込んで勝負したいとも思っているのですが、それを実現するためにはやはり一回その枠を外さないと縛られて自由に振る舞えない気がしていますね。

神永 「絆創膏」という思考も含めたデザインがEMARFで商品化できるというのはおもしろいと思いました。お気に入りの作家さんの器を買って、生活に取り入れる時の高揚感や豊かさに近いような気がしました。辻さんの暮らしや家に対する考え方や思想に共感して、それを自分の家に取り入れるというのはすごく良いですね。

秋吉 コロナ禍で、自分の家に長時間滞在したり、身近な生活に想像力を働かせられるようになったことで、自分の身体性が家の空間や生活にまでに広がっていく可能性があると思いました。すごくおもしろかったです。本日は皆さんありがとうございました。
「EMARF 3.0」は今日ダウンロードできるようになったので、是非使って、新しいデザインやビジネスに取り組んでみてください。そこで躓くことがあれば、われわれが精一杯サポートします。

[2020年5月27日YouTube Liveにて開催]
text by millegraph[株式会社ミルグラフ]