スタートアップが拓く未来の都市と建築

OPEN VUILD 特別編#0

建築テック系スタートアップVUILD(ヴィルド)株式会社では、多様な領域で活躍する専門家を招き、さまざまな経営課題や組織のあり方についてオープンな場で語り合う「OPEN VUILD」を開催しています。特別編のゲストには、Mistletoe(ミスルトウ)株式会社ファウンダーで、VUILDの共同創業者でもある孫泰蔵さんをお迎えします。

 

先端技術を駆使し、社会課題の解決に取り組む世界中のスタートアップの最新動向をはじめ、未来の住まい方や働き方の向かう先、そしてそれらを支える建築物や都市空間のこれからについて、議論を深めていきます。

 

Text by Risa Shoji
Photo by Hayato Kurobe

 

孫泰蔵を起業に向かわせた「強い使命感」

秋吉 本日は、日本を代表する連続起業家であり、VUILDの共同創業者でもある孫泰蔵さんをゲストにお招きしています。

孫泰蔵 Taizo Son/Mistletoe株式会社ファウンダー。日本の連続起業家、ベンチャー投資家。大学在学中から一貫してインターネットビジネスに従事。その後2009年に「2030年までにアジア版シリコンバレーのスタートアップ生態系をつくる」として、スタートアップのシードアクセラレーターMOVIDA JAPANを創業。そして2013年、単なる出資に留まらない総合的なスタートアップ支援に加え、未来に直面する世界の大きな課題を解決するためMistletoeを設立。その課題解決に寄与するスタートアップを育てることをミッションとしている。

 

初めまして。Mistletoeの孫泰蔵です。私は現在、世界中のスタートアップ企業への投資や育成、支援を行ないながら、自身も起業家として複数の企業の経営に関わっています。

 

起業のきっかけは、米ヤフーを創業したジェリー・ヤン(Jerry Yang)氏との出会いでした。1995年12月、23歳のときです。

 

スタンフォード大学の大学院生だったヤン氏は、インターネットが商用化されて間もない1994年、大学の友人であるデビッド・ファイロ(David Filo)氏とともに利用者たちがインターネット上に置かれているさまざまな情報を効率よく探し、評価し、整理することができる独自のソフトウェアを開発しました。

 

ヤン氏は、その理由を「人類の発展のためにやらなければならない」と語りました。自分とさほど年の違わない彼の強い決意に、私は大きなショックを受けました。そして、ヤフー・ジャパン(Yahoo! JAPAN)の立ち上げに私も関わらせてもらうことになったのです。

 

そのとき自分の会社をつくったことが、起業家としての第一歩でした。

 

それ以来、さまざまな企業を立ち上げたり、事業に投資したりしてきました。ここに掲載しているのは、いわゆる成功事例で、実際はこの倍ぐらい失敗事例がある。借金もいっぱいつくりました。

 

世界的に見ても、同世代で僕より失敗した人はいないでしょう。じつは、それが私の一番の自慢なんです。そういう経験を持っていることが、今の自分の支えになっているからです。

 

21世紀の課題は「雇用喪失」と「過剰な都市化」

 

さて、ちょっと話題を変えます。上の写真は1900年に撮影されたニューヨーク5番街の様子です。自動車が初めて公道を走った時のニュース写真ですが、道路を走っているのはほとんど馬車です。

下は、1913年に撮られた同じ場所の写真です。馬車は見当たりません。13年の間に、ほとんど全て自動車に置き換わってしまったからです。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:NewYorkCityOstersonntag1900.jpg?uselang=ja

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ave_5_NY_2_fl.bus.jpg

 

2枚の写真は、街の風景が一変するほどの劇的な変化が、わずか10年ほどで起きたことを物語っています。世界では、100年に一度ぐらいの割合で、テクノロジーによる大変革が起きている。馬車から自動車、そして今起きつつあるのが自動運転車(autonomous vehicle)への転換です。

 

移動に対するあり方が激変するとともに、人間に求められるスキルセットも変わっています。19世紀には馬の扱い方、20世紀には車を運転する技術でしたが、21世紀の今は「AIを使いこなす力」が必要になる。

 

AIやロボットが進化すると、どのような課題が生まれてくるのでしょうか。私は2040年ぐらいの社会における課題は「雇用の喪失」と「過剰な都市化」、この二つに集約されると思っています。

 

20年後、AIとロボットで置換可能な仕事は、確実に無くなります。雇用を失った人々は、仕事を求めて都市に向かうでしょう。

 

都市では大量の失業者が街をさまよい、スラムを形成していく。街の治安は悪化し、スラムには教育を受けられない子どもたちが溢れ、貧困が再生産されていく。こうした格差の拡大は、やがて街全体を荒廃させてしまうのです。

 

そんな“ディストピア”は、本当に来るのでしょうか。歴史を紐解くと、産業革命の頃に似たようなことが起きていました。

 

例えば、18世紀半ばの英国・ロンドンでは、産業構造の変化によって職を失った人や移民が大量に流入し、仕事に就けないままスラムを形成していました。街角には、粗悪なジンを手に飲んだくれる人々が溢れていました。

 

産業革命で職を失ったのは、肉体労働を担うブルーカラーの方が中心でした。でも、AIやロボットが奪うのは、知的生産に従事するホワイトカラーの仕事だと言われています。

 

生活コスト削減にスタートアップが果たす役割

 

このような課題に対処するためには、20世紀の産業社会型のモデルから、21世紀型の価値モデルへと転換していく必要があります。ただし、その具体的なビジョンは誰も示すことができていません。だから私は、ここ数年、自分なりにその答えを探求してきました。

 

下のグラフを見てください。緑は収入です。赤は、税金や社会保険料、住居費などの毎月かかってくる必要なコスト。オレンジは、収入からそれらを除いた可処分所得、つまり「自由に使える所得」です。この可処分所得が多いほど、生活に余裕が出て、人々は豊かに暮らせるようになります。

 

 

ところが、AIやロボットによって人々の職が急激に奪われると、家計の収入は大幅に減ってしまう。最悪の場合、必要コストが収入を上回り、可処分所得がゼロになる可能性もある。そうなると、家計を切り詰めても、暮らしはかなり苦しくなる。

 

収入(緑色のグラフ)が減っていくのは、世界的なメガトレンドなので避けようがありません。それでも不自由なく暮らしていくにはどうすればいいのか。このグラフを見ながらずっと考えていて、気づいたんです。この赤い部分、生きるために必要なコストをゴソッと減らせればいいのではないか、と。

 

コスト削減はテクノロジーの得意分野です。食料や水、エネルギー、住宅、移動など生活に不可欠なコストをテクノロジーによって減らし、より自由で豊かな暮らしを実現する。そのためMistletoeでは、このような21世紀の課題を解決するスタートアップの支援に力を入れています。

 

より良い未来をつくる具体的ビジョンを示す

 

その代表例といえるスタートアップがあります。名前は出せないのですが、シリコンバレーで自動運転車を開発している若手起業家集団です。彼らは運転手を必要とせず、どんな道路でも自動運転が可能なロボットカーをゼロからつくろうとしています。

 

彼らはこの自動運転車を使った公共交通事業を2020年までに開始すると言っています。さらに、彼らは「人類が移動にお金を払っていた時代を終わらせる」と宣言しています。7割を占めるドライバーの人件費を削減し、残りの3割を広告や車内での物販などでまかなえば、タクシーの無料化は不可能ではないと考えているんですね。

 

無料で使えるロボットタクシーが登場すれば、移動のために車を所有する必要もなくなります。そうなれば駐車場もいらなくなる。信号も不要です。自動運転車の普及は、移動にかかるコストを下げるだけでなく、時間や空間に余剰を生み出します。そして、やがては都市空間そのもののデザインを変えることになるでしょう。

 

このようにテクノロジーによって社会全体のシステムやデザインが変わっていけば、コモンズ(Commons)のあり方も変わっていくでしょう。コモンズとは、個人の所有物ではない公益に資する資源のことです。私は今後、特定の所有者がいる「プライベートな空間=家」と「パブリックな空間=コモンズ」はゆるやかにつながり、その役割も可変的なものになると考えています。

 

20世紀までの家は、家族だけが存在するプライベートな空間として設計されてきました。ところが、民泊仲介サイトの台頭で、ホームシェアリングを前提につくられた家も登場し始めています。

 

家の中の空間を居室ごと、フロアごとに分け、スマートロックを設置しておけば、宿泊施設やパーティスペースとして自在に使うことができます。近隣の住民と連携してそれぞれの1階部分を解放し、イベントや催事スペースとして活用することも可能になるでしょう。

 

 

アクセシビリティやモダリティの概念を空間に取り込むことで、私的な住空間はパブリック/プライベート両方の機能を持つ可変空間=新たなコモンズに変化していく。そうなれば、これまで行政に委ねられていたコモンズのあり方を、新しい文脈と意味をもって再生させられるかもしれません。

 

 

AIやロボットの発展には、たしかにマイナスの側面もあるでしょう。だからこそ、より良い未来をつくるため、今を生きる私たちがその具体的なモデルを提示しなければならない。責任重大ではありますが、それは社会全体や人類の未来に寄与する大きなチャンスでもある。

 

 

私がVUILDを応援しているのは、そんな私の思想とVUILDのビジョンが一致しているからです。秋吉くんたちの取り組みには、私たちも多大なインスピレーションを受けています。これからも、さまざまに協働していきたいと思っています。

 

自律分散型ものづくりが可能にする新しい建築

 

秋吉 泰蔵さん、ありがとうございました。ここからは、VUILDの取り組みについて紹介したいと思います。

 

 

VUILDはデジタルファブリケーションを軸に、全国各地にものづくりのネットワークを作っていく活動をしています。具体的には、Shopbot(ショップボット)という木工CNC加工機を企業や自治体に導入し、地域内で建築がつくられる仕組みを提案しています。

 

Shopbotは、コンピュータ上で設計したデータを意図した通りに加工できる機械です。木工のスキルがない人でも、アイデアさえあれば、Shopbotを用い独力で作品がつくれます。こういう機材があれば、誰もが必要なものを自分でつくれる「生き生きとした社会」が実現できるはず―そんな思いからVUILDの設立に至りました。

 

秋吉 木工加工機の技術そのものには、さほど目新しさはありません。Shopbotの革新性は、これまで3千万円以上の投資が必要だった木材加工機と同様の機能を、5百万円程度で実現したところにあります。

 

Shopbotによって最も恩恵を受けるのは、中山間地域で木材を生産している人々たちです。なぜなら、Shopbotはこれまでの木材の供給と流通のあり方を変えてしまうポテンシャルを秘めていたからです。

 

VUILDでは、中山間地域の生産者たちにShopbotを販売し、彼らが自らものづくりできる仕組みをつくろうとしています。全国の木材生産地で「つくり手」の数を増やし、それらを自律分散型のものづくり拠点としてつなぐ。木材を一箇所に集めて規格品を大量生産する20世紀型とは違う、21世紀型の生産ネットワークを形成したいと考えています。

 

秋吉 VUILDは、これまで26地域に28台のShopbotを導入してきました。今後は年間販売数を毎年2倍ずつ増やし、2023年までに累計1千台の導入を目指しています。これは林野率50%以上の自治体の数とほぼ同じです。1千台のShopbotが稼働する生産ネットワークがつくれたら、流通のあり方や、地方と都市の関係性はガラリと変わると思っています。

 

現状の課題は、デザインや設計の知識がなくても、誰もがShopbotを使ってものづくりできる仕組みの構築です。アイデアを形にする過程では、設計や構造計算といった専門知識が必要です。しかし、導入先の地域に必ずそういう知識を持った人がいるとは限らない。

 

 

そこで次の段階として、クラウド上に誰もが利用できる設計支援ツールを用意し、建築の専門領域にかかわる工程をシステム化する取り組みを始めています。クラウド上からデジタルデータをダウンロードしてShopbotに出力すれば、専門知識がなくても家具や家がつくれる環境を整えたいと思っています。

 

秋吉 現在は、これまでつくってきたさまざまな家具や建築物の設計データをテンプレート化し、カスタマイズして自由に使えるデザイン・プラットフォームを開発中です。今後は11月末に、熊本県南小国町、愛知県豊川市、岩手県花巻市の3地域で運用を開始する予定です。

 

未来をつくる「新しい市民」の育て方

 

秋吉 ここからはディスカッションの時間にしたいと思います。さっそく伺いたいのですが、泰蔵さんは今、新しい教育の仕組みづくりに取り組んでいますよね。

 

子どもたちの新しい学びの場をつくるというコンセプトで、VIVITA(ヴィヴィータ)という教育スタートアップを立ち上げました。千葉県柏市の「柏の葉T-SITE」の中に「VIVISTOP(ヴィヴィストップ)」という施設もつくりました。

 

秋吉 VIVISTOPは、子どもたちが自律的にものづくりできるスペースで、3Dプリンターやレーザーカッターが用意されています。そこで子どもたちは、自由に自分のつくりたいものをつくっているんです。昨年冬には、VUILDとのコラボでVIVISTOPに置く展示台をつくるワークショップも開催しました。

 

 

秋吉 VUILDでも、子どもたちが新しいテクノロジーと親しめるさまざまなプロジェクトを仕掛けています。例えば、京王電鉄さんと取り組んでいる笹塚駅前広場のリニューアル・プロジェクトでは、地域住民や子どもたちとともにオリジナルベンチを制作しています。

 

秋吉 これは公共空間に「皆がほしいものを皆でつくる」ための試みで、「自分がほしいものを自分でつくる」ものづくりの次なるステップと言えます。

 

つまり、地域の人々にまちづくりに関わる機会を提供することで、「新しい市民」を育てていきたいと思っていて。それが「新しいコモンズ」や「新しい都市空間」を生み出すきっかけになると考えているからです。

 

 

僕はVIVISTOPの取り組みも「新しい市民」の育成にリンクすると感じているんですが、VUILDの取り組みについて泰蔵さんはどう思われますか?

 

未来を担う「新しい市民」の育成は、とても重要だと思います。

 

 

そもそもVIVITAを立ち上げたきっかけは、4歳の我が子を学校に行かせたくないと思ったことがきっかけなんですね。今の教育で学ぶことは、ほぼAIに取って代わられてしまう。ならば、全く新しい学びの場が必要だろう、と試行錯誤しながらつくったのがVIVISTOPです。

 

秋吉 VIVISTOPは授業料を取らないんですよね。

 

完全無料で利用できます。授業料を取れば、通えない子どももでてきてしまう。それだけは絶対に避けたかったので、今は無収入で運営しています。オープンでフリーなコミュニティとして存続することで、いずれ大きな価値になると信じて続けています。

 

秋吉 実際、子どもたちの成長ぶりは凄まじいですよ。子どもでも扱えるオリジナルのCADソフトを使ってどんどんデザインして、レーザーカッターで出力していろいろなものを作っちゃうんです。

 

いずれはCADソフトをShopbotに接続して、子どもたちが自分の机や椅子を自らデザインしてつくることができる環境を実現したいですね。デジタルファブリケーションによる“製造の民主化”を子どもたちまで拡大することで、「新しい市民」を育てていきたいと思っています。

 

リミッターを設けないマインドセットが社会を変える

 

 

秋吉 僕は「新しい市民」に必要なものって、テクノロジーを使いこなすスキルセット以上にマインドセットが大事だと思っていて。

 

 

先日、ハワイに住む泰蔵さんの友人宅を一緒に訪れまして。ご友人が所有しているShopbotを使って、誕生日を迎えるその方のお子さんのプレゼントつくるお手伝いをしたんです。

 

彼の息子さんは日本でいうと小学生で、ユーチューバーなんです。

 

秋吉 みんなで息子さんの希望を聞きながら、一日中アイデアを出し合って、オリジナルのYouTubeスタジオを作ることになりました。

 

秋吉くんと(VUILDの)森川さんが設計をサポートしてくれて、なんと次の日には完成しちゃったんですよ。

 

秋吉 プレゼントを渡したら、すごく喜んでくれて。僕たちにオリジナルの“Shopbot ラップ”を披露してくれましたよね(笑)。

 

「Yo! Shopbot!」とか言ってね。彼があれほど興奮した姿をこれまで見たことがなかったので驚きました。

わずか2日間で完成させた「YouTube スタジオ」

 

秋吉 Shopbotを使ったものづくりでは、スキルを身につけることだけでなく、これまでの思い込みや様式を捨て去り、リミッターを外すことが大事だと思うんです。

 

大人と違って、子供は新しいものをそのまま受け入れて、リミッターを外して突っ走れる。それは今の時代、明らかにアドバンテージですよね。

 

秋吉 以前、泰蔵さんが言っていた「子ども時代の成功体験が世の中を変える自信になる」という言葉が印象に残っていて。子どものうちからリミッターを設けず、自分のアイデアが形になる体験を通じて自信を積み重ねていくこと自体が、すごくクリエイティブなことだな、と。

 

VIVISTOPが目指しているのは、そういう経験を積み重ねること。「やろうと思えばなんでもできる」という自信を育むことなんです。彼らはきっと「強い思いがあれば、世界すら変えられる」と信じられる大人に育つでしょう。未来は、そういう「新しい市民」の手によってつくられていくのです。

 

今日お集まりの皆さんは、さまざまな経験やスキルをお持ちの方々だと思います。ぜひ、それを子どもたちにシェアしてください。彼らの自由な活動を応援してあげてください。それが、未来をディストピアにしない最良の方法だから。僕はそう信じています。

 

秋吉 泰蔵さん、本日はありがとうございました。

2018年10月5日、VUILD川崎LABにて開催