不動産と公共のこれから

OPEN VUILD #3

建築テック系スタートアップVUILD(ヴィルド)株式会社では、多様な領域で活躍する専門家を招き、さまざまな経営課題や組織のあり方についてオープンな場で語り合う「OPEN VUILD」を開催しています。第3回は2018年6月6日、川崎市のVUILD川崎LABにて開催されました。

 

今回のゲストは、リノベーション業界の第一人者として知られる「u.company株式会社」代表・内山博文さん、そして新しい住まい方を提案する不動産仲介サイト「東京R不動産」ディレクターの林厚見さん。「不動産と公共のこれから」をテーマに、既存空間に新たな価値を生み出す手法や今後の公共の在り方、めざす未来について語り尽くした当日の様子をお伝えします。

 

Text by Risa Shoji
Photo by Hayato Kurobe

 

内山博文 Hirofumi Uchiyama
1968年、愛知県生まれ。筑波大学卒業後、大手デベロッパーを経て、株式会社都市デザインシステム(現UDS株式会社)入社。2005年、株式会社リビタを創業、リノベーションのリーディングカンパニーに成長させる。2009年、一般社団法人リノベーション住宅推進協議会副会長に就任、2013年より同会長。2016年、不動産コンサルティングを行うu.company株式会社、都心部の中小ビル再生を行うJapan.asset management株式会社を設立、両社の代表に就任。

 

林厚見 Atsumi Hayashi
1971年、東京都生まれ。東京大学工学部建築学科、同大学院修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、コロンビア大学建築大学院不動産開発科修了。国内不動産デベロッパーにて財務担当取締役を務めた後、2004年に株式会社SPEACを設立、共同代表に就任。現在は「東京R不動産」ディレクターを務めるほか、リノベーション・内装のECプラットフォーム「toolbox」の運営、不動産や地域の開発・再生プロデュース、宿・飲食店・広場などの運営などを行っている。

 

デジタル技術で挑む「自由度の高い賃貸住宅」の実現

秋吉 おふたりにはVUILDの外部パートナーを務めていただいていますが、まずは簡単に自己紹介をお願いします。

 

内山 内山と申します。今はリノベーション推進協議会の会長、不動産コンサルティング会社u.company株式会社の代表という二つの肩書きで活動しています。

もともとは、新卒でマンションデベロッパーに入社し、1996年に不動産ベンチャー(株式会社都市デザインシステム、現・UDS株式会社)へ参画。その後、2005年に株式会社リビタを創業しました。リビタでは11年ほどリノベーション事業の拡大に取り組み、2016年に独立して今に至ります。

 

秋吉 内山さんはリノベーション業界の第一人者として知られていますが、リノベーション住宅推進協議会を立ち上げたきっかけは何だったんですか?

 

内山 リビタでリノベーション事業に取り組み始めたときは、まだエンドユーザーに既存住宅を活用し、リノベーションするという金融や税制優遇などのインフラが整備されていなかったなかったんです。そもそもリノベーション物件の基準も無いような状況でした。そこで「業界を変えるには、一企業だけでがんばってもダメだ」と思い、同じ志を持つ仲間たちと業界団体を作りました。

内山さんが一棟リノベーションを手がけた渋谷区神泉のホテル「TurnTable」(写真提供:u.company)

 

立ち上げから10年が経ち、今は会員数が900社(923社では?)を超え今年は1000社を超えそうなところまでになりました。最近はリノベーションの注目度も上がり、ときどき霞ヶ関にも呼ばれるまでになりました。

 

秋吉 u.companyでは、どのような事業を手がけているんでしょうか。

 

内山 自治体からの相談に乗ったり、若いベンチャー企業のメンターを務めたり、意欲のある面白い若者と積極的に付き合ったり、再生PJのコンサルティングやクライアントの新規事業の仕組みの構築をコンサルするなど幅広く活動しています。昨年末から秋吉くんと取り組んでいるプロジェクトもその一環です。簡単にいえば、今の不動産業界の課題である「自由度の高い賃貸住宅の不足」を解決する手法を開発しています。デジタルファブリケーション技術やShopbotというツールを使って、可変的でフレキシブルな家をつくる試みですね。

 

中古の魅力を再発明した「東京R不動産」の挑戦

秋吉 では林さん、バトンを渡していいでしょうか?

 

 林と申します。僕は14年前、2004年に起業して今の仕事を始めました。大学時代は建築デザインを学んでいましたが、自分は表現者には向かないと自覚して経営コンサルティング会社に就職し、海外留学を経て不動産ディベロッパーに転職しました。そこで今のパートナーである吉里裕也(現・東京R不動産代表ディレクター)と出会い、建築家の馬場正尊(同)らとのチームにつながっていきました。

 

秋吉 それで不動産仲介サイト「東京R不動産」ができたわけですね。

 

 東京R不動産は、「いい空間」と「創造的な人々」をマッチングするプラットフォームです。東京には古い建物がたくさんありますが、その佇まいにある味わいや個性をうまく活かしてリノベーションすれば魅力的な物件になる。でも、ビルのオーナーたちは「お金がないから無理」と言うわけです。ならばお金をかけずとも、伝えるべき人に視点を変えて紹介することで人を集めましょうよ、と。そこで「レトロな味わい」「倉庫っぽい」など、物件の個性を切り口に魅力を伝えるサイトをつくったんです。

唯一無二のユニークな物件に出会える「東京R不動産」(写真提供:SPEAC)

 

秋吉 2015年には公共空間バージョンといえる「公共R不動産」もスタートしていますよね。

 

 公共R不動産は、馬場が中心になって進めているプロジェクトです。公共不動産が余っていく時代におけるシンクタンクやメディアとして機能しています。

 

秋吉 今なぜ、公共空間なんでしょう?

 

 僕が最近、意識しているワードに「建築、それは借金である」というのがあって。公共施設やオフィスビル、住宅を含むあらゆる建物は、ほぼ借金でつくられていますよね。建築というのは、人々が数十年かけて利用したり稼いだりすることを前提にしてはじめて成り立つモデルなんです。

でも、人口減少のフェーズに入った今、資金や資源を先に投下して長期間かけて回収するモデルは成り立たなくなる。過去の成長モデルにどっぷり浸かったままなのは、持続可能性社会を実現していく上で非常に危ないわけです。

都市や街の持続を考えると、うまく使われていない公共空間をどう使っていくか? という知恵が大事になるんです。僕は最近では「都市経営」と「パブリックデザイン」をテーマに「公共R不動産」にも関わりつつ、公共施設の再編・再生を核とした自治体の中長期戦略やクリエイティブを支援する活動を始めています。

 

「裸貸し」こそが日本人ならではの住宅観

秋吉 ここからは、本日のテーマ「不動産と公共のこれから」について議論していきたいと思います。

一つ目は、多拠点生活やシェアハウスなど多様な「住まい方」が生まれている中で「住まいの形」はいまだに画一的である、という課題について。可変的でフレキシブルな「住まい方」と「住まいの形」を、一緒に探っていきたい。

二つ目は、なぜ今「公共」に注目が集まっているのか。公園や公共施設からコモンズ(入会地)、軒下まで、そのさまざまな運用方法や投資対象としての可能性についておふたりの意見を伺いたいと思います。

 

内山 一つ目の議題にからめて言うと、某電力会社さんから相談をいただき、昨年末から秋吉くんと進めている大阪の戸建賃貸プロジェクトは、まさに「新しい住まいの形」を提案する実験的な試みですよね。

 

秋吉 大阪には昔「裸貸し(はだかがし)」という独特の借家システムがあって。畳や襖、障子などの建具や水回りの内装を、借主が用意して、出ていくときは持っていくんです。つまり、借り手は自分の生活スタイルに合わせてフレキシブルな住まい方ができる。とはいえ、そういった暮らし方を実現する箱がなければならない。そういった大阪商人の家からヒントを得て僕らが提案したのが「続・裸貸しの家——ニコイチの長屋」です。

ニコイチ(二戸一)とは、独立した複数の住宅が水平に並んで一つの建物を形成している住宅形態です。真ん中にコアが入り、両サイドに一つずつ住居がある形状で、中央の空間には住民が自由に使える共用の庭があります。

ユニークなのは、住居の(内側の)壁を取り外して引っ越しできるような、新しい規格のモジュールの提案をしている点です。Shopbot で削ったCLTパネルで躯体がつくり、その間に90mmの板柱を入れれば、910mmぐらいの隙間が生まれる。そこに既存規格の間仕切りをはめたり、建具を入れたりすれば、住み手が自由な空間をつくることができるんです。

内山 僕はこのアイデアに、すごく可能性を感じていて。なぜなら日本人の住宅観って、すごく画一的じゃないですか。昭和の時代からぜんぜん変わっていない。時代も価値観も変わったのに、いまだにゴールは「夢のマイホーム」で、高額なローンと家(不動産)にライフスタイルを縛られているなんて悲しいじゃないですか。「続・裸貸しの家」は、そんなジレンマを打破する、自由な住まい方のプラットフォームになり得ると思うんですよね。

 

秋吉 理論的には、工場でつくったCLTパネルを、現場に設置したSHOPBOT(運搬可能)に持ち込めば、1日で床や壁を含んだ構造躯体を組み立てられる計算です。

 

内山 それが可能になったら、例えば70m2強の家を一戸あたり1000万円以下で建てられる。高額なローンを組む必要もないし、賃貸することもできますよね。いよいよライフスタイルの変化に対応できる自由な暮らしが実現しそうだな、と。

 

 VUILDがやっているのは、これまで多額のコストと多くのプロセスを必要とした家づくりを、誰もがDIYできるようにする仕組みづくりなんですよね。それは建築にまつわる経済パラダイムを変革することでもあり、それが実現していけば先ほどの「建築、それは借金である」という話も、見事になくなるわけです。

 

秋吉 「経済パラダイムの変革」という意味では、森林資源が豊富な中山間地域の現場にShopbotを持ち込み、現地の材料を用いて少人数で加工から施工まで行うことで、流通コストを限りなく抑えることができます。そうすると、ほぼコストをかけずに自分たちがつくりたいものをつくれるんです。今は、それをワークショップ形式でさまざまな都市に展開しています。

 

 そういう場所が全国にあれば、ラップトップ一つで場所を問わずに建築がつくられていくというわけですね。

 

「不動産のサブスクリプション化」がひらく地方の未来

秋吉 そういう「多様な住まい方にフィットする新しい建築のエコシステム」を、どうやったらつくっていけるのか。ここからは、実際に多拠点居住を実践しているVUILDの井上さんにモデレーターとして登場してもらいましょう。

 

井上 急遽、モデレーターに指名されました井上です。VUILDではCOOという立場ですが、拠点は岡山県の西粟倉村にあります。山間地の西粟倉村では、地域内の木材流通の構築や間伐材を使った商品開発などを手がけています。

今は全国のさまざまな地域に家族単位で移動する生活をしていることもあり、常に「自由な住まい方」を模索しています。例えば、地方の公共施設や遊休不動産を自由に使える「サブスクリプション・モデル」を構築するとか……。

 

 その文脈で言うと、伊豆諸島の新島で僕らが運営しているカフェ兼宿泊施設はそのモデルに近い小さな実験です。20人ほどが泊まれる陶芸家のアトリエ兼住居を、都内の企業8社で借り上げているんですが、月会費は1社あたり1万数千円程度。社員はいつでも利用できて、合宿もできる。これが実にいい空間なんですよ。内山さんも以前、鹿島でサーフハウスを運営していましたよね。

2015年にオープンした「common house Row 新島」(写真提供:SPEAC)

 

内山 「シェア別荘」をネットワークして、サブスクリプション型で利用する仕組みは、今後増えていくかもしれませんね。

 

 これって、公共の枠組みにも拡張できるんですよ。例えば、地方自治体はどこも移住者を増やそうと頑張っていますが、このモデルを使えば関係人口の増加を促すことができます。こうやって少し視点を変えるだけで、遊休不動産を地域活性につなげるヒントが見えてくる。

 

内山 不動産業界は、建築や設計、金融を含めたステークホルダーがボトルネックになっている。日本人は家を買うことに対して、非常に保守的です。だから、どんなに素晴らしい建物や仕組みをつくっても、ユーザーが納得感を持って消費できる環境をつくらないと、新たなエコシステムの構築は難しい。まずは業界とユーザー自身の意識を変えていくこと。そこが一番の課題ですね。

 

井上 業界全体の意識を変えていくには、地価のような経済指標ではなく、住み手の納得感や幸福度も含めて価値付けを行う必要があるかもしれませんね。

 

「価値ある土地を選ぶ」時代から「土地の価値をつくる」時代へ

 

秋吉 関係人口の話ともリンクしますが、例えば月額1万円で地方に家を借りられる仕組みができたら、都市と地方といった明確な線引きができないくらい、流動的に人口が流れていくようになると思うんです。それは地方に限らず、活用されていないパブリックスペースにも同じことが言えるな、と。

もちろん、そういう場を作ったら、何らかの形で回収しなければなりません。下北沢の高架下プロジェクトに携わっている林さんに、公共空間に対する投資のスキームや都市経営の仕組みについてお聞きしたいです。

 

 じつは下北沢の高架下は、京王電鉄の私有地なんです。「3年間の期間限定で空き地を有効利用したい」という相談をいただき、「下北沢ケージ」という施設をつくりました。周囲を金網のフェンスで囲い、イベントを開催したり、飲食店や屋台で交流できたりする実験的なスペースです。みんなが使えるスペースを提供することで下北の街や人々に貢献している、という考えですね。

下北沢の高架下に誕生した「下北沢ケージ」(写真提供:SPEAC)

 

「下北沢ケージ」では、なるべくお金をかけずにみんなが憩える場を意識しました。僕はこの「お金を使わずに幸福度を高める」という視点が、これからの都市経営にはすごく大事だと思っていて。国や自治体の財政がどんどん厳しくなる時代には、公共資産に無駄な投資をせず、最低限の投資で高い満足度を得られる空間づくりが必須になるでしょう。

 

内山 僕は昨年10月、渋谷区神泉の児童公園を再生するプロジェクトに携わりました。きっかけは、公園に隣接する徳島県の官民連携ホテル「TurnTable(ターンテーブル)」の一棟リノベーションを担当したことです。当初、公園には木々が生い茂り、昼間でも人気がなく、薄暗い空間でした。「ここをオープンなスペースとして使えたら、人の流れが変わるんじゃないか」。そう考えて、管理者の渋谷区や地域の人々と協議の上、僕たちが渋谷区に資金を寄付(投資)する形で再整備が始まりました。

 

秋吉 再整備後のオープニングイベントでは、徳島の杉材を使った遊具づくりのワークショップで、僕たちVUILDも協力させてもらいました。

 

内山 ホテルとしては公園と一体化したことで建物の価値が向上し、渋谷区としては公園の維持管理費の負担が減る。地域の人々にとっては、子連れでも安心して利用できるスペースが生まれ、徳島の人々との新しい地域交流も始まった。僕としては初めての公共プロジェクトでしたが、関係者全員にとって満足度の高い事例になりました。

 

 2016年にリニューアルした豊島区の南池袋公園も、開放的な芝生のオープンスペースに再生して大成功しましたよね。そのおかげで今、周辺エリアの地価が急上昇しているそうです。

活気のない寂れたエリアでも、しっかり資金調達して強いビジョンとストーリー、チームを組み合わせていけば、場所のバリューは自分たちの手で作り出せる。そういう時代になってきているな、と。

 

全てのまちづくりは「みんなでつくる」という思想に行き着く

瀬戸内海の小さな離島「男木島」(写真提供:香川県観光協会)

 

内山 先日、香川県の離島・男木島を訪れたときに思ったんです。「住宅の価値」という意味では、今後いちばん下落するのは都心部かもしれないな、と。

男木島は瀬戸内海に浮かぶ人口160人ほどの島ですが、近年子育て世代の移住者が増えて注目されています。移住者によって新しくカフェや図書館ができたり、小学校が再開されたりして島全体が活気づいている。でも、島内を歩いてみると、接道のない空き家が斜面にたくさん建っていて、ほとんどタダのような値段で取引されているんですね。

ゼロ円で買ったものの価格は下がりようがないし、今後も移住者が増えれば、むしろ上がる可能性もある。もちろん、資産価値は都心の住宅の方が高いのは事実ですが、今後価値が上がるのはどちらか? と問われたら、男木島の方がそのポテンシャルは高いかもしれないぞ、と。

 

 街の魅力はそこに住む人々に根付くものなので、生活者の満足度や幸福度が街の価値を高めていくんですよね。だから全てのまちづくりは、最終的に「みんなの手でつくっていく」という思想に行き着く。VUILDの活動は、まさにその思想を体現していると思います。

 

秋吉 今の時代、建物の魅力はもう「築年数」や「駅徒歩」だけでは測れない。その土地にどんなストーリーがあるのか、そこにはどんな人々が集まっていて、どんな個性があるのかにこそ、価値がある。そういう土地にまつわるメタ情報を可視化する仕組みをつくれたら、不動産や公共空間はもっと面白くなっていくのかもしれない。お二人のお話を聞いていて、そんな風に感じました。

内山さん、林さん、今日はありがとうございました。