White Loop
「こどものための建築」ときいて、真っ先にイサム・ノグチを思い浮かべた。先日札幌にある『ブラック・スライド・マントラ』を見に行った際、子供たちが螺旋状に旋回しながら、登っては降りてを繰り返し遊んでいる姿が印象に残った。この情景を思い出しながら、「白樺の木々の間をすり抜け、大きく面的に旋回しながら、子供達が登ったり降りたりして、互いに追いかけ合っている姿」を頭の中に思い描いたが最初の着想であった。
また同時期に読んでいた『バーバ・パパ』の絵本からも大きな影響を受けた。愛らしい膨よかな身体が、変幻自在に変化し、時には動物に、時にはジェットコースターへと変化し、親しみやすい色と形で子供達を柔らかく包み込む。興味深いのは、彼らの家づくりの方法だ。自らの体に樹脂を巻きつけ、体を膨らました後に小さくなって抜けることで、有機的な空間を創り出していく。この発想は、樹脂を溶かしながら積層し造形していく3Dプリンターによる家づくりのようであり、その先見性に驚かされた。
この2つのインスピレーションから、樹脂3Dプリンターを用いて滑り台をつくるという方針が定まった。いざ様々な滑り台を観察してみると、滑りたくて登ったけど逆走してくる子に戸惑ったり、滑りたくて並んだけど横入りされて泣いたりと、滑り台を巡る希望と失望のせめぎ合いに直面した。この軋轢を解消するには、滑ると登るの間をシームレスにつなぎ、滑り台と階段の形を同一化すると良いのではと考え、現在の「メビウスの輪」のような形に辿り着いた。
白い洞窟のような空間に「潜り」、滑り台型の階段を慎重に「登り」、風景を見渡しながら「座り」、晴れやかな気分で「滑り」、また期待を膨らましながら「走る」。この一連の経験(シークエンス)こそが原初的な建築体験であり、この小さな建築で遊ぶことを通じて建築への興味が芽生えることを願っている。
プロジェクト情報
所在地 |
清春芸術村(山梨県北杜市長坂町中丸2072) |
用途 |
遊具 |
設計期間 |
2023年11月~2024年2月 |
制作期間 |
2024年3月~2024年6月 |
最高高さ(最頂部) |
2m(対象年齢:3~5歳 ) |
設計 |
VUILD(秋吉浩気、伊勢坊健太、須藤望) |
製作 |
VUILD (花田泰史、小西陽二) |
3Dプリント |
DigitalArchi(松岡康友、立川博行) |
構造監修 |
Arup(金田充弘、後藤一真) |
写真(竣工) |
Hayato Kurobe |