まれびとの家
デジタルファブリケーション技術を用いて、木材調達から加工・建設までを半径10km圏内で完結させた本作品は、林業の衰退と限界集落化の課題に挑んでいる。人口約600人の村に地場の木材を活用し「共同保有型の」宿泊施設を作ることで、人々が親戚を訪れるように継続的に山村を行き来するような「観光以上移住未満」の暮らしを提案する。
人口減少社会と呼ばれる昨今、各中山間地域では移住者の獲得に躍起になっているが、移住・定住の心理的ハードルの高さから、思うようにうまくいかない。一方で、コロナ禍のリモートワークの実践が明らかにしたように、もはや都心だけに住む必然性が見いだせなくなっている。このような背景から、家と宿泊所の間のような住居の所有方法を発明することで、都市と地方の間の非対称に挑んだ。具体的には、クラウドファンディングに参加した顔の見える出資者同士で保有管理する方法だ。 また、中山間地域固有には、森林資源をどう利活用するかという課題がある。林業の衰退の背景には、木材が産地から消費者の手に届くまで、多くの中間業者を介しているが故に、地域の生産者に利益が残りにくい産業構造がある。そこで、生産地である森にデジタルファブリケーション技術を導入することで、豊富に植わった大径木を地域内で家具・建築化できる生産体系を構築した。
地域の伝統構法である「合掌造り」を、現代のデジタル技術でアップデートすることを試みた。本家を踏襲し、南北に走る山脈と平行に建物を配置し、東側にウィンドキャッチャーの機能をもった開口部を設けることで、平面から風や光を建築内部に取り込み、居住快適性を担保した。 また、かつての合掌造りのような「地域住人が参加して建てる建築 」の再現を目指し、子供でも持てる小さくて軽い部品による構法を考案した。同時に、敷地周辺の未活用の木材を伐採する所から着手することで、「ほぼゼロ円の土地にほぼゼロ円の材料で」建築することを試みた。 その際、合掌梁に貫が勘合することで固まる構造形式によって、重機や足場がなくとも施工できるようにした。最終的に、デジタル加工機によって1000以上の部材と1000 以上の仕口が生じたが機械加工故に狂いはなく、地域の大工と共に設計を進めることで、土着性とデジタルの配合に成功した。
プロジェクト情報
所在地 |
富山県南砺市利賀村大勘場 433 |
用途 |
短期滞在型シェア別荘 |
主体構造・構法 |
木造 |
基礎 |
直接基礎 |
階数 |
2階 |
敷地面積 |
330.08m² |
建築面積 |
52.44m²(建蔽率15.9%) |
延床面積 |
59.32m²(容積率 17.9%) 1階 52.44m²/ 2階 6.88m² |
設計 |
VUILD株式会社 |
施工 |
VUILD株式会社、関弘幸、中島志伸、林敬庸、中嶋智之、河野竜太、小島一隆 |
構造設計 |
yasuhirokaneda STRUCTURE |
環境 |
環境 DE.Lab |
金物 |
株式会社ヒラミヤ |
受賞歴 |
グッドデザイン2020金賞 |
写真(竣工) |
Takumi Ota |